激動の明治、「マクズ ウエア」の名を全世界に轟かせた陶工・初代宮川香山。明治工芸のリーダーは、つねに時代の要請に応えながらも独創性を失わない。彫刻的な装飾陶技の極みに見る底しれない芸術性。中国清朝の技法を手にしては新たな磁器創造の高みへとわが身を駆り立てる。偉大な才能は世界各国で開催された万国博覧会における数々の輝かしい受賞歴に結実し、各国審査員から「類まれなる有能な技術者にして才能ある芸術家」と称えられた。
本書は、横浜で産声を上げた今はなき幻の窯から生み出された鮮烈な作品の記憶を呼び覚ますものである。海外に散逸した眞葛焼の秀作を個人コレクターの“情熱”が日本に帰らせ、多くの日本の人々にこそ開放したいという試みである。
明治期の美術の世界に開く理想的な「窓」であったと評される陶工・初代宮川香山。翻って2010年、本作品集は日本に向けての「窓」となり得るべく編纂した。現代陶芸評論の大家、金子賢治氏、伝統の窯を守り続ける第十五代沈壽官氏、宮川家の御末裔・宮川博明氏等きら星のごとき執筆人をお迎えし、初代宮川香山の足跡をご考察いただいた。また、海外からは眞葛焼研究における第一人者、オックスフォード大学アシュモリアン美術館キュレーターのクレア・ポラード氏をお招きし、原文も合わせ収載した。
1945(昭和20)年、横浜大空襲でその歴史に幕を閉じるまでの間、眞葛窯から生み出された名品150点を個人所蔵コレクションの中から厳選し、あますところなくご紹介します。ぜひこの機会にご高覧いただき、明治の偉大なる陶工・初代宮川香山の軌跡を共に歩み、再発見していただきたいと存じます。