昭和二十年乙酉杯

[1945(昭和20)年]

三代宮川香山

初代宮川香山の作品は、当時その多くが海外へと輸出され販売された。近年になり、これまで知られていなかった作品が海外で発見されることも多い。本作品は、2020年にアメリカフロリダ州で発見され、日本に里帰りした作品である。

上蓋の摘みに精緻な猫の細工が施されている。丸め込んだ背中にうっすらと浮かぶ背骨。口や耳の内部までも精巧に細工が施され、毛並みの一本一本も細密に描かれている。単に写実性を追求するだけではなく、猫が持つ愛らしさまでも見事に再現している。上蓋上面や胴部の絵付けは、イッチンの技法を多用するだけではなく、童を浅く浮き彫りにするなど、立体的に変化に富んだ絵付けが施されている。蓋側面の方形文様が煙通しとなっており、本作品が香炉として製作されたことが確認できる。胴部縁に持ち手が付いているが胴部に固定されており可動はしない。作品全体は、茶白猫の明るい色調が胴部の金彩や絵付けと相まって、柔らかく華やかな雰囲気を創出している。本作品の底面には、瓢箪型の「眞葛香山造」の印が確認できる。この印は初代香山が明治9年から14年頃まで使用しており、本作品も明治14年頃までに製作されたものと推察できる。明治8年から明治14年頃に明治政府が殖産興業を目的に、工芸家に貸し出すために描いた図案をまとめた『温知図録』第四には、本作に類似する白黒猫の摘みで胴部に牡丹が描かれた香炉の図案が収録されている。現存する初代香山の作品で、図案と同様に白黒猫の細工に牡丹の絵付けの香炉作品も確認されているが、本作は茶白猫であり、また胴部の絵付けも牡丹ではない。これは、本作品が明治政府によって提示された図案を忠実に再現するという意図で製作されたものではなく、香山によるアレンジを反映させ、図案をより発展させた作品として意義深い。

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