氷窟ニ鴛鴦花瓶

[1910(明治43)年]

初代宮川香山

口縁部から幾数も垂直に垂れ下がる氷柱。それらの先には、今にも滴り落ちそうな澄んだ水滴が見事に表現されている。水滴が落ちる先に目を下ろすと、そこにはうっすらと青みがかった今にも凍り付きそうな湖沼が広がる。胴部に目を向けると、氷窟がぽっかりと口を開ける。薄暗い内部を覗き込むと、二羽のオシドリが寄り添って幸せそうに佇んでいる。造形の美しさのみならず、施釉の技術も際立つ作品である。

 本作品については、研究者から伊藤若冲の作品にインスピレーションを受け制作されたものではないかとの指摘がなされている。伊藤若冲の代表作「動植綵絵」は江戸中期に制作された30幅からなる日本画だが、その中に「雪中鴛鴦図」(1759)という1幅がある。雪景色の中にオシドリを描いた作品であるが、垂直に垂れ下がる氷柱の滴るような表現と番いのオシドリは、確かに偶然の一致とは思えない。

初代香山は京都で幼少期より、池大雅と縁のある画僧から書画を学んでいる。池大雅と同世代の京都の画家である伊藤若冲の作品を知っていたとしても不思議はない。