七宝筒形灯籠鳩細工桜

[1881(明治14)年頃]

初代宮川香山

 ランタンの赤いガラスの部分に注目していただきたい。この部分は、透明度の高いガラス質の釉薬を用い、七宝焼の技法を応用して製作されている。

 初代香山は1881(明治14)年頃、非常に熱心に七宝焼の研究を行っていた。1881(明治14)年の第二回内国勧業博覧会の出品目録を見ると、七宝焼の技法を使った香山の作品が複数確認できる。研究熱心でチャレンジ精神溢れる姿がここにも確認できるのである。しかしこの年、香山は七宝を捨て陶磁器に専念することを決断する。

 

 「明治14年第二回内国勧業博覧会開設の時に、香山氏は見物に赴いて、濤川 惣助氏の無線七宝の前に至り、その妙技に見惚れて、暫くうごかなかったが、覚えず絶叫して曰く、今日より七宝は濤川氏に任せ、吾は陶器専門家に成らむと、これより復た七宝を造りませんでした」

(『陶器百話』学芸書院、1935年)

 本作品は七宝焼の技法を使用した香山の作品で唯一現存が確認できる大変貴重なものである。また本作品には“桜”が極密で描かれているが、第二回内国勧業博覧会の出品目録に「七宝筒型灯篭鳩細工梅」という作品が確認でき、本作品とは絵付けの桜と梅の違い以外ほぼ同じ作品であったと考えられる。このことから本作品は第二回内国勧業博覧会出品作と同時期に製作された兄弟作品だと考えられる。