狸亭
初代宮川香山は、1907(明治40)年頃から胃潰瘍による大量の吐血や原因不明の眼疾を患っており、晩年は闘病生活をおくることも多かった。しかしその創作意欲は尽きることはなく、1913(大正2)年8月には眞葛焼と並行し「狸亭」という新ブランドを立ち上げる。亡くなる3年ほど前のことである。
横浜市歴史博物館には初代宮川香山直筆の『狸亭 商品売上帳』が収蔵されている。《狸の形をした酒徳利》や《狸の形をした楊枝入》、《狸の形をした湯呑》など、小品で日常的に使用できる作品が多く掲載されている。また「狸亭」の製作は同年11月13日までとなっており、わずか3ヶ月間だけ製作されたことがわかる。現存する「狸亭」作品は非常に少なく、まさに幻のやきものといえる。
「狸亭」最後の作品は《狸 胡粉仕上げの置物 2個》で、売上帳に販売済みを示す赤い丸マークはつけられていない。《狸の形をした置物》は、二代香山の箱書で初代の遺作であることを記した遺作箱に収められており、初代の没後に販売された本作品が「狸亭」最後の作品である可能性が高い。
また、《狸の形をした酒徳利》は、横浜宮川家本家に伝来し愛用されていたもので、宮川眞名誉館長よりプレゼントしていただいたものである。現在、我が家の家宝となっている。この場をお借りし改めて御礼を申し上げたい。